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最高裁判所第三小法廷 昭和46年(オ)844号 判決 1971年12月21日

上告人

佐々木きみ

代理人

牧野芳夫

被上告人

東保昭次

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人牧野芳夫の上告理由について。

建物の共有者の一人がその建物の敷地たる土地を単独で所有する場合においては、同人は、自己のみならず他の建物共有者のためにも右土地の利用を認めているものというべきであるから、同人が右土地に抵当権を設定し、この抵当権の実行により、第三者が右土地を競落したときは、民法三八八条の趣旨により、抵当権設定当時に同人が土地および建物を単独で所有していた場合と同様、右土地に法定地上権が成立するものと解するのが相当である。したがつて、これと同旨の原判決は相当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(田中二郎 下村三郎 関根小郷 天野武一)

上告代理人の上告理由

第一点 原判決はその理由中「けだし本件建物の共有者の一人である同訴外人(註、後藤長七郎)はその所有する本件土地の上に地上権を設定する権限を有するものであるから右土地に抵当権を設定することにより競売の場合につき訴外人のための法定地上権の成立を排斥すべき理由はなく」と前提し「そのことはとりもなおさず他の共有者の利益のために地上権を設定したことに帰し、さらに本件土地の競落人が同訴外人のために法定地上権を忍受しなければならないことは、結局本件建物の他の共有者のためにも忍受しなければならないことに帰着するからである」との理由を以て「要するに建物の共有者の一人がその所有する右建物の敷地に抵当権を設定したときは建物の単独所有者の場合と同じく民法第三八八条の趣旨により法定地上権が成立すると解しうる」と結論した。

しかし自己の所有の土地の上に自己所有の建物のために新たに地上権を設定することは混同の法理によつて許されない。

民法第三八八条は、「土地及ヒ其上ニ存スル建物カ同一ノ所有者ニ属スル場合ニ於テ」と前提し「其ノ土地又ハ建物ノミヲ抵当ト為シタルトキハ抵当権ヲ設定シタモノト看做ス」と擬制したものである、本件の場合の如く土地は訴外後藤長七郎の所有であり建物は後藤長七郎、後藤春枝、鯛瀬幸枝三者の共有である場合は、土地と建物が同一の所有者に属するとは云ひ得ない。即ち昭和三〇年六月十五日、土地所有者後藤長七郎が訴外光信用金庫のため根抵当権を設定したのであるが、訴外長七郎は三分の一の持分を有するにすぎず三分の二の持分は他二名に属していた。然るに原判決は建物の共有者の一人が、その所有する敷地につき抵当権を設定したとき建物単独所有の場合と同じく法定地上権が成立すると拡張解釈した。

民法第三八八条は、民法制定当時、土地の価値は建物の価値と比較してはるかに低く、現今は、全く正反対で、土地の価値は建物をはるかに上廻ている。民法制定に当り建物を土地と分離して別個の財産権として、別個に処分し得るものとしたことは、その後の経済発展と共に幾多の障害を残し多くの土地、建物の紛争の根源となつていることは周知の事実であり、民法第三八八条も建物と土地とを同じく不動産として別個の処分権を認めた制度上の欠陥を曝露しているものである。

今日の如く、土地の価値と建物の価値が、転倒した時代において、建物所有者の利益にのみ偏した拡張解釈は極力避けなければならないし、「同一の所有者」なる概念も厳格に解釈する必要がある。

しかも法定地上権は通常の地上権と内容を同じくする強力な物権と解するならば尚更である。

依つて原判決は法律の解釈を誤つた法令違反のものであり、且法律によらず、土地所有者に対し損害を与えるものであるから憲法違反の判決である。

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